女性全体の約40%、または生理のある女性の約65%に見られる症状として知られる貧血。実際に貧血になったことがあるという方も多いのではないでしょうか。
男性に比べて女性に起こりやすい貧血ですが、妊娠するとさらに貧血のリスクが上昇します。
今回は、妊婦に見られる貧血症状について理由や症状、治療方法などを分かりやすく解説します。合わせて、妊婦の貧血が赤ちゃんに与える影響についても紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
貧血とは
貧血とは、血液のなかで酸素を体内に送り届けるための赤血球もしくは血色素(ヘモグロビン)が減少してしまい、正常に酸素を送れなくなってしまうことで現れる症状を指します。
赤血球や血色素が減少してしまう理由によって、貧血は「鉄欠乏性貧血」と「葉酸欠乏性貧血」に分けられることはご存知でしょうか。それぞれの貧血についても、解説していきます。
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血とは、ミネラルの一種である鉄分の不足が原因で起こる貧血です。食事などから摂取・吸収した鉄の約7割は赤血球に含まれるヘモグロビンの合成に用いられ、残りは筋肉や肝臓、脾臓、小腸、骨髄などに蓄えられます。
しかし、摂取する鉄が不足してくると貯蔵している鉄が減少し、やがてヘモグロビンの合成が正常に行えなくなり、赤血球は酸素を運搬する機能を損なってしまいます。この症状が鉄欠乏性貧血です。
葉酸欠乏性貧血
葉酸欠乏性貧血とは、ビタミンB群の一種である葉酸が不足することで起こる貧血です。葉酸は、タンパク質やDNAの合成などに必要な栄養素であり、赤血球を成熟させる働きも担っています。
葉酸が不足すると、赤血球は酸素の運搬が可能な状態に育つことができず、本来の役割を果たせなくなり、貧血症状が起こります。成熟していない赤血球は巨赤芽球と呼ばれ本来の役割を果たせないまま大きくなって壊れてしまうことから、葉酸欠乏性貧血は医学用語で「巨赤芽球貧血」とも呼ぶのが特徴です。
妊娠中に貧血になりやすい理由
女性はもともと生理(月経)によって定期的に多量の血液を失ってしまいます。生理によって失われる鉄分は、ひと月に摂取する鉄分と同量であるとも言われており、日頃から十分な鉄分や葉酸を摂取していなければ、簡単に貧血症状がでてしまうでしょう。
妊娠すると必要な鉄分の量は。非妊娠時よりもさらに多くなります。これは、胎児自身の体にも鉄分が必要となるからです。
また、妊娠中はホルモンの影響によって血液が固まりやすくなります。妊娠中の血栓を防ぐために、妊婦は血漿量が増加し体内の血液量が非常に多くなるのが特徴です。
しかし、血液の量が増えたからといって赤血球やヘモグロビンの量が増える訳ではありません。
血液量に対して赤血球やヘモグロビンの量が少なくなってしまうことでも、貧血症状が現れてしまいます。
妊娠中は以下の理由で貧血症状が起こりやすくなることを覚えておきましょう。
- 赤ちゃんが鉄分を必要とするから
- 血漿の量が増えて、血液が薄くなってしまうから
これらの原因による貧血は、鉄分や葉酸を十分に摂取することで改善されます。
妊娠中の貧血症状
妊娠中は貧血によって以下の症状が見られます。
- 疲労を感じやすくなる
- 倦怠感
- 脱力感
- 眩暈
- ふらつき
- 動機
- 息切れ
- 異食症など
貧血による異食症では、氷を食べたくなる症状がみられることも珍しくありません。また、顔色が悪い、唇が青いなど、貧血は容姿からでも症状が見て取れることが多いです。
妊娠中の貧血によって赤ちゃんに影響はある?
妊娠中に貧血を起こすと赤ちゃんに以下の影響を与える可能性があります。
- 切迫早産のリスクが上昇する
- 低体重児のリスクが上昇する
- 産後の肥立ちが悪くなる可能性がある
- 産後の母体感染のリスクが上昇する
- 産後の母乳が出にくくなる可能性がある
貧血によって血液量や酸素の供給量が減ってしまうと、赤ちゃんに十分な栄養や酸素を送り届けられなくなってしまうため、成長が妨げられるリスクがあります。産後においても母乳は血液を原料に作られているため、貧血になって血液の量や質が低下してしまうと十分な母乳を出すことができなくなってしまう可能性があります。
妊婦が貧血と診断される数値は?
ヘモグロビン値 | ヘマトクリット値 | |
---|---|---|
妊娠していない女性 | 12.0g/dl未満 | 36%未満 |
妊娠している女性(初期) | 11.0g/dl未満 | 33%未満 |
妊娠している女性(中期) | 10.5g/dl未満 | |
妊娠している女性(後期) | 11.0g/dl未満 |
貧血は血液検査によってヘモグロビン値などを計測し診断をします。貧血はヘモグロビンの量を表すヘモグロビン値と血液中に含まれるヘモグロビンの割合を表すヘマトクリット値によって診断するのが一般的です。
妊娠していない成人女性の場合、ヘモグロビン値が12.0g/dl未満、ヘマトクリット値36%未満の場合に貧血と診断されます。一方、妊娠している女性の場合は基準が低くなり、ヘモグロビン値11.0g/dl、ヘマトクリット値33%未満で貧血と診断されるのが特徴です。
また一般的な診断基準は上記とされていますが、妊娠期間によっても診断の基準が異なるケースも多くみられます。
妊娠初期や妊娠後期はヘモグロビン値11.0g/dl、ヘマトクリット値33%未満ですが、妊娠中気はヘモグロビン値10.5g/dl未満で貧血と診断されるケースもあります。
妊婦の貧血の治療方法
妊婦が貧血になった場合、検査の結果や状態に合わせて「食事療法」「内服薬の処方」「医療措置」の3つの治療方法を医師が選択します。続いては、それぞれの治療方法について詳しくみていきましょう。
食生活の改善指導
症状が軽度の場合、十分な鉄分や葉酸を摂取できるよう食生活の改善指導などで対応することもあります。特に、妊娠中や産後は継続的に、鉄分や葉酸を十分摂取する必要があるため、他の治療方法と平行して食事療法の指導を行うケースも少なくありません。
内服薬の処方
中度から重度の貧血症状が見られる場合、鉄剤や葉酸などの成分が含まれる内服薬を処方する薬物療法で治療を行うことがあります。基本的に妊娠中の貧血が長期間続く場合、治療の第一選択は内服薬の処方と考えられます。
注射・点滴・輸血などの医療措置
つわりによって内服薬を服用できない場合や、何らかの疾患によって内服薬を充分に吸収できず貧血症状が改善されない場合、注射や点滴などで鉄剤を補給する場合もあります。ただし、アナフィラキシーショックや過剰投与を防ぐため、治療は時間をかけて慎重に行われます。
また、鉄剤や葉酸を摂取しても症状が改善せず、呼吸困難、頻脈、頻呼吸などの重篤な症状がみられる場合、輸血による処置を行うこともあります。
妊娠中は貧血対策としてサプリを服用しても大丈夫なの?
貧血対策として妊娠する前から鉄分や葉酸のサプリを服用していたという人もいるでしょう。
妊娠中は鉄分や葉酸のサプリを貧血対策として服用しても問題ありません。ただし、サプリのなかには、過剰摂取すると赤ちゃんの成長に悪影響を与えるものもあるため、どのような成分が含まれているのかよく確認しましょう。
特にビタミンAの過剰摂取によって胎児奇形のリスクが上昇する可能性があるという報告もあるため、医師に確認してから服用する方が安心でしょう。
妊娠中の貧血対策としておすすめの食べ物
妊娠するとどのような女性でも貧血が起こりやすくなってしまいます。そのため、貧血症状が出る前から食事のなかで鉄分や葉酸を充分に摂取しておくことが大切です。
日頃から鉄分や葉酸が充分に含まれる食べ物を意識的にとることで、妊娠だけでなく月経による貧血なども防ぐことができます。どのような食べ物に鉄分や葉酸が多く含まれているのかを知り、意識的に食生活に取り入れてみてください。
鉄分が多く含まれる食べ物
鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があり、それぞれに吸収率が異なります。ヘム鉄は含まれる鉄分の10~20%を吸収できるのに対し、非ヘム鉄は含まれる鉄分の1~6%が吸収できると言われています。
効率良く鉄分を摂取したいのであれば、ヘム鉄を多く含む食品を選ぶのがよいでしょう。また、非ヘム鉄は動物性たんぱく質やビタミンCと一緒に摂取すると吸収率がアップすることが分かっています。これらの特徴を理解したうえで、鉄分の多く含まれる食べ物を食生活に取り入れてみてください。
ヘム鉄の多い食べ物
ヘム鉄が多く含まれる食べ物には以下のものがあります。
100gに含まれる鉄分 | 吸収できる鉄分量 | |
---|---|---|
あさりの水煮 | 30.0mg | 3~6mg |
豚レバー | 13.0mg | 1.3~2.6mg |
鶏レバー | 9.0mg | 0.9~1.8mg |
牛レバー | 4.0mg | 0.4~0.8mg |
生のマグロやカツオ、牡蠣なども鉄分が豊富に含まれますが、魚の生食は妊娠中は控える方がよいと言われています。また、牡蠣も充分に加熱しているものなら良いですが、生食などで食中毒のリスクがある場合には控えた方がよいでしょう。
妊娠中は、あさりの水煮や豚レバーなどを積極的に食べることで、十分な鉄分を摂取できます。
非ヘム鉄の多い食べ物
非ヘム鉄が多く含まれる食べ物には以下のものがあります。
100gに含まれる鉄分 | 吸収できる鉄分量 | |
---|---|---|
油揚げ | 3.2mg | 0.32~1.92mg |
小松菜 | 2.8mg | 0.28~1.68mg |
大豆 | 2.2mg | 0.22~1.32mg |
ほうれん草 | 2.0mg | 0.2~1.2mg |
卵 | 1.5mg | 0.15~0.9mg |
非ヘム鉄は動物性たんぱく質と一緒に摂取することで鉄分の吸収率がアップします。油揚げのように大豆製品を油で揚げている食品は、効率良く鉄分を摂取できるため積極的に摂取しましょう。
また、ほうれん草に含まれるシュウ酸には鉄分の吸収を阻害する働きがあります。しかし、油で炒めるなど調理法を工夫することでシュウ酸の阻害要因を抑えることもできるため、鉄分の量だけでなく、組み合わせる食材や調理方法にも工夫するのがおすすめです。
葉酸が多く含まれる食べ物
葉酸が多く含まれる食べ物には以下のものがあります。
100gに含まれる葉酸 | |
---|---|
焼き海苔 | 1900㎍ |
えだまめ | 260㎍ |
ほうれん草 | 210㎍ |
アスパラガス | 180㎍ |
納豆 | 130㎍ |
焼き海苔は一見、葉酸の含有量が多いですが1枚あたり約3gなので、約57㎍が含まれます。ほうれん草には非ヘム鉄だけでなく葉酸も多く含まれているため、効率良く鉄分や葉酸を摂取できる野菜としておすすめです。その他、さつまいもやアボカド、いちごなどにも葉酸が豊富に含まれています。
妊婦の貧血対策におすすめのレシピ
最後に、妊婦の貧血対策におすすめの鉄分。葉酸豊富なレシピを紹介します。
あさりとえだまめの炊き込みご飯
ヘム鉄が豊富なあさりの水煮と葉酸が豊富なえだまめを使った、簡単レシピです。手軽に作れ、主食で十分な栄養が取れますよ。
材料
材料は以下のとおりです。
- 米
- あさりの水煮缶
- えだまめ
- 昆布
- 酒
- 醤油
- 塩
- おろししょうが
えだまめは事前に房から豆を取り出しておきましょう。昆布がない時には顆粒出汁などで代用しても問題ありません。
作り方
作り方は以下のとおりです。
- 米をよく洗って水を切る
- あさりの水煮缶を汁ごと入れる
- えだまめをいれる
- 酒、しょうゆ、塩、おろししょうがを入れる
- 炊飯器の目盛りに合わせて水を加える
- 昆布を入れて炊飯器で炊飯する
炊飯器ひとつで作れる簡単レシピです。完成した炊き込みご飯に刻んだ焼き海苔をトッピングするのもおすすめですよ。
アスパラガスの卵炒め
葉酸が豊富なアスパラガスを簡単な卵炒めにして食べてください。卵に含まれる非ヘム鉄は、油で炒めることで吸収率がアップします。
材料
材料は以下のとおりです。
- アスパラガス
- 卵
- サラダ油
- 塩コショウ
サラダ油は、お好みに合わせてバターに変えても美味しく仕上がります。
作り方
作り方は以下のとおりです。
- アスパラガスの根元の皮を剥いて適当なサイズにカットする
- フライパンにサラダ油を入れて、溶き卵を炒める
- 溶き卵を菜箸で解しながら炒め、一度皿に上げる
- アスパラガスを炒める
- 3の卵を加える
- 塩コショウで味を調える
忙しい朝などでも、手軽に作れる簡単レシピです。
まとめ
妊娠中の貧血について紹介してきました。女性は元々、貧血を起こしやすい傾向にありますが妊婦になるとさらにリスクが高まります。
貧血によって妊婦自身や赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性が高いため、症状が現れる前から「貧血になるかもしれない」と意識して食生活などを見直すようにしておきましょう。
充分に対策していても、つわりなどで食事をとれず貧血になってしまうこともあるでしょう。その際には、しっかりと医師に相談して速やかに貧血の治療を行ってください。
赤ちゃんや妊婦自身の健康のために、貧血対策や貧血の治療をしっかりと行っておくことが大切です。
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