妊婦健診で「逆子」と言われると、「赤ちゃんは大丈夫なの?」「出産はどうなるの?」と不安に感じる妊婦さんも多いかと思います。結論からいうと、逆子であること自体は赤ちゃんの成長やママの体に影響はなく、過度に心配する必要はありません。
ここでは、逆子の原因や逆子を治す方法、逆子の分娩方法などについてご説明します。
逆子とは?
逆子とは、赤ちゃんの頭が下にない状態を言い、医学用語では「骨盤位」と言います。
赤ちゃんはママのお腹の中で動いているため、頭の位置が変わることはよくあります。
特に妊娠中期までは頭の位置が変わっていることも多く、グルグルと回りながら過ごしているのです。妊娠後期になり赤ちゃんも大きくなってくると、頭が重くなるので、頭が下向きになるのが一般的です。
しかし、妊娠後期になっても逆子のままの人も一定数います。
逆子の種類
逆子にも種類があり、赤ちゃんの向きや姿勢によって違いがあります。
単殿位(たんでんい)
単殿位とは赤ちゃんのおしりが下にあり、V字型の姿勢になっている状態です。逆子の8割がこの姿勢と言われていて、単殿位の場合は経膣分娩も可能と言われています。
複殿位(ふくでんい)
複殿位とは赤ちゃんがあぐらをかいた状態になっていて、足とおしりが産道を通ることになるため、頭の大きさよりも大きくなります。そのため、経膣分娩も可能ですが、経膣分娩の途中で引っかかってしまったり、止まってしまったりすることがあり、その場合は帝王切開となります。
足位(そくい)
足が下にある場合を足位と言います。両足で立っているような姿勢を「全足位」、片足立ちの姿勢を「不全足位」と言います。出産時は足から出てくることになるため、ほとんどの場合、帝王切開です。
膝位(しつい)
膝位は膝が下にある姿勢を言い、両膝を下についたような姿勢を「全膝位」、片膝を下についたような姿勢を「不全膝位」と言います。出産時は膝から出てくることになるため、足位同様、出産方法は帝王切開となります。
逆子の原因は?
逆子の原因はわからないことが多く、逆子を予測することや予防することは難しいです。逆子の原因として考えられることは以下の通りです。
- 子宮の形態異常
- 胎盤異常
- 骨盤の幅
- 多胎妊娠
- 羊水過多
子宮の形態異常
良性の腫瘍である子宮筋腫がある場合は、お腹の中で赤ちゃんの動きが制限されるため、逆子になりやすいと考えられています。
また、子宮の形が生まれつき変わっている子宮奇形の場合、子宮が狭くなっていたり、子宮の中に壁のような仕切りがあることで赤ちゃんの体勢に影響が出やすいです。
胎盤異常
胎盤の位置は通常子宮の上の方にありますが、子宮の下の方につく低置胎盤や子宮口を覆うように胎盤ができる前置胎盤の場合、逆子になりやすいと言われています。
骨盤の幅
ママの骨盤の幅が狭い場合、赤ちゃんが動きにくく逆子になりやすいと言われています。
多胎妊娠
双子や三つ子など、双子以上の妊娠を多胎妊娠と言いますが、赤ちゃんが動けるスペースが狭くなってしまうため、逆子になりやすいです。
羊水過多
羊水の量が多い場合を羊水過多と言いますが、羊水が多いとお腹の中で赤ちゃんが自由に動き回れるため、逆子になりやすいと考えられています。
逆子の確率は?
妊娠中期までは赤ちゃんはお腹の中で自由に動き回れるため、逆子になることが多く、妊婦健診で逆子と指摘されたことがあるという方も多いでしょう。妊娠中期までに逆子である確率は30%〜50%と言われていて、逆子であることは珍しいことではありません。
妊娠中期は赤ちゃんもまだ成長中であり、お腹の中のスペースにも余裕があるため、出産までに頭が下になる「頭位」になることがほとんどです。
出産前に逆子である確率は3%〜6%と言われており、出産直前まで逆子だったけれど、出産前に赤ちゃんの位置を確認したら頭位に戻っていたということもあります。
逆子と診断されるのは何週ごろ?
妊娠中に逆子といわれると大丈夫かなと不安になる方もいるでしょう。妊娠中期の妊婦健診で逆子と言われても、これからまだまだ回る確率が高いので、あまり心配する必要はありません。妊娠30週以降になると、妊婦健診の時に産婦人科医も赤ちゃんの頭の位置を気にしながら超音波検査で確認するようになります。
出産まで逆子の場合、多くの施設で帝王切開分娩となりますが、妊娠34週頃に逆子の場合は、手術の準備を進めることが多いでしょう。
自然に逆子が治ることもある?
妊娠後期(28週〜)になり逆子といわれると、このまま帝王切開になるのかな?赤ちゃんの頭の位置は戻るのかな?と思う方も多いでしょう。
妊娠後期になると、赤ちゃんの大きさはどんどん大きくなるため、動くスペースは限られていますが、妊娠後期でも逆子から頭位に戻ることはあります。妊婦健診の時は逆子だったけれど、手術前に赤ちゃんの向きを確認したら頭位になっていて、帝王切開を中止にするということもあり、経膣分娩に切り替わることもあります。
逆子のリスクはある?
逆子であること自体は、赤ちゃんの成長やママの体に影響はありません。そのため、逆子であることを心配する必要はないでしょう。
ただ、逆子の場合、経膣分娩では難産になるリスクが高いため、現在ではほとんどの施設で帝王切開となります。
逆子の分娩方法は?
出産前まで逆子の場合、施設により出産方法は異なります。可能なかぎり経膣分娩での出産を選択する施設と、逆子は全例帝王切開になる施設があります。対応は一定ではありませんが、日本ではほとんどの施設で帝王切開となっているのが現状です。当院でも逆子の場合は帝王切開でのお産になります。
逆子で経膣分娩はできない?
逆子で経膣分娩を選択する施設は少ないですが、経膣分娩をする場合、条件として以下の項目が挙げられます。
- 逆子の経膣分娩の技術のある医師がいて、緊急時帝王切開にすぐに切り替えられる
- おへそが赤ちゃんよりも下にある「臍帯下垂」でない
- 胎盤の位置が問題ない(前置胎盤など)
- 妊娠36週以降で推定体重が2000g〜3500g未満であること
- 一般的な経膣分娩の禁忌がないこと
このような条件下であれば逆子の経膣分娩は可能と考えられています。
逆子の経膣分娩のリスクは?
帝王切開は痛いし怖いから、できれば経膣分娩で産みたいなと思う方もいるでしょう。帝王切開ではなく、経膣分娩の場合考えられるリスクは以下のようなものが挙げられます。
- 早くに破水してしまう
- おへそが先に出てしまう
- 陣痛が弱くなる
- 赤ちゃんの頭が産道の途中で引っかかってしまう
逆子で破水してしまうと、羊水の量が急激に減少してしまう場合があります。
また、赤ちゃんのおへそが赤ちゃんよりも先に出てしまうことを「臍帯脱出(さいたいだっしゅつ)」と言いますが、赤ちゃんに酸素が十分に送れず、赤ちゃんが非常に苦しい状況になります。逆子の種類によっては、この「臍帯脱出」になるリスクが高くなるため、破水時は赤ちゃんの姿勢にも注意し、危険度に応じて緊急帝王切開が行われるのです。
それだけでなく、逆子の場合、出産時に陣痛が弱くなる微弱陣痛になりやすく、出産まで時間がかかり、母子ともに負担が大きく疲れやすいです。また、赤ちゃんのおしりや足が出ても肩や頭が産道を通る過程で骨折してしまったり、途中で引っかかって赤ちゃんが出てこられない可能性もあります。
このように、逆子の経膣分娩はリスクがかなり高く、赤ちゃんにとってもママにとっても危険なため、多くの施設では帝王切開を選択します。
逆子の経膣分娩の技術を習熟した産婦人科医が在籍していて、緊急時は帝王切開にすぐに対応可能な施設であれば経膣分娩でも対応可能ですが、逆子の経膣分娩は一般的な頭位の経膣分娩よりもかなりリスクが高くなるので、経膣分娩を選択する場合は十分にリスクを知り、医師からの説明をしっかりと聞いた上で検討しましょう。
逆子を治す方法は?
逆子を治すことができるのであれば治したいと考える方も多いでしょう。ここからは逆子の治療方法についてご紹介します。
逆子体操
基本的に逆子は自然に治ることが多いので、赤ちゃんが回ってくれることを待ちますが、妊娠30週をすぎても逆子の場合、逆子体操を指導されることがあります。
逆子体操は医学的に有効性が実証されてはいませんので、指導されないこともありますが、病院で指導された場合は試してみてもいいでしょう。
逆子体操はお腹が張ることがあるので、切迫早産と言われている場合や、医師から許可が出ていない場合は控えてください。また、体操中にお腹が張ったらすぐに中止し、安静にしてください。
胸膝位(きょうしつい)
胸膝位はうつ伏せに寝て顔の下にクッションをおきます。頭と胸を床につけた状態でおしりを高くしそのまま状態を保ちます。10~20分続けた後、そのまま下記の側臥位で寝ます。
側臥位(そくがい)
体を横向きにして寝る方法です。右向きの方法と左向きの方法があります。
赤ちゃんの背部が上になる向きで左向きか右向きか決まります。
ブリッジ法
仰向けになり、足を肩幅程度に開いて、両膝を立てます。そして腰の下にクッションや枕を入れて腰の位置を高くした状態を10-15分程度保ちます。
クッションや枕で高さの調整が難しい場合は、バスタオルを丸めて当ててもいいでしょう。
外回転術
外回転術とは、妊娠中に医師がお腹の外から手を使って赤ちゃんを回転させ、頭位にさせる方法です。外回転術の成功率は60%〜70%と言われています。
外回転術の方法は?
外回転術は以下の方法で行います。
- 妊婦は仰向けに寝て、頭をさげ、骨盤をあげる「骨盤高位」の姿勢をとります。
- お腹の張り止めの点滴や麻酔の薬を使用し、お腹をやわらかく動かしやすい状態にします。
- 赤ちゃんの位置や向きを超音波検査で確認します。
- 施術者がお腹の外から頭とおしりをしっかりと捉え、おじぎをするように前まわりになるように回転させます。(赤ちゃんの姿勢によっては後ろ回りの場合もあります)
外回転術の時期は?
外回転術は妊娠36週以降に行うことが推奨されています。
外回転術の適応は?
外回転術には適応がいくつかあります。
- 帝王切開をしたことがない
- 胎盤の位置が正常
- 羊水の量が正常
- 赤ちゃんの頭の大きさが骨盤を通過することができる
- 切迫早産でない
また、外回転術は医師の技量や経験が必要なため、熟練した一部の医師しかできないのが実情です。外回転術中には、母体と胎児の状態を常に監視し、慎重に進める必要があります。
外回転術のリスクは?
外回転術にはリスクがあり、常位胎盤早期剥離(赤ちゃんがお腹の中にいるのに胎盤が先にはがれてしまう病気)や胎児心拍の悪化を引き起こすことがあり、外回転術の1~2%は緊急帝王切開になると言われています。
外回転術を行う時期によっては、赤ちゃんが早産になることが考えられるため、NICU(新生児集中治療室)がある限られた施設でしか行うことができません。
鍼灸療法
逆子を治すためにお灸をすることは日本だけでなく世界でも行われていて、成功率は高いと言われていますが、有効性は確認されていません。
一般的に逆子矯正のツボは三陰交(うちくるぶしから指4本分上)や至陰(足の小指の生え際、一番外側)の2つです。冷えを改善したり、血流を改善することで赤ちゃんがよく動き、逆子が治ると考えられています。
鍼灸療法を行うことのデメリットはあまりないですが、産婦人科医が鍼灸も熟練していることはあまりないため、希望する場合は医師に相談してみてください。
まとめ
妊娠中に逆子を指摘されても、多くの場合自然に治ります。妊娠後期になっても逆子のままであれば、帝王切開になるのかなと不安に思うかもしれませんが、逆子体操や鍼灸、外回転術など対策もありますので、医師に相談してみてください。
出産前まで逆子の場合は帝王切開になることがほとんどですが、不安や疑問点があれば妊婦健診の時に医師に相談しましょう。赤ちゃんとママにとって安全な方法での出産になりますので、過度に心配しすぎず、穏やかに出産に臨めるといいですね。
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