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先天梅毒とは?赤ちゃんへの感染を防ぐために出来ること

医療法人みらいグループ
母親に抱かれながら、泣いている赤ちゃん

「梅毒」という名前を聞いたことはありますか?性感染症のひとつで、近年感染者が急増している病気です。
妊娠中に梅毒に感染すると母体だけでなく、お腹の中の赤ちゃんへの影響が大きいため、早期の発見・治療が必要になります。
この記事では、梅毒の基礎知識や、「先天梅毒」のリスクから生まれてくる赤ちゃんを守る方法について解説します。

先天梅毒とは

先天梅毒とは、梅毒に感染している妊婦の子宮内にて、胎児が梅毒に感染することをいいます。胎盤を通して赤ちゃんにも梅毒が感染します。生まれてすぐは症状が無いこともありますが、出生後に様々な影響を及ぼします。
梅毒は「梅毒トレポネーマ」という病原体が原因です。感染すると全身に様々な症状が出ます。

梅毒の感染経路

梅毒はほとんどが性行為と母子感染により感染します。輸血や傷口からの感染が起こることもありますが、現在は輸血前の検査を十分に行っているため、非常にまれです。口や性器などの粘膜や皮膚の接触により感染するため、多くが性的な接触で感染すると言われています

梅毒の患者数

梅毒患者数の年次推移

梅毒の患者は2021年(令和3年)以降急増しており、全国的に感染が広がっています。厚生労働省の報告によると、2022年(令和4年)以降感染者は1万人を超え、2023年(令和5年)には、調査が始まって以来最も多い15,055人が感染しました。
男女ともに感染者が増えており、男性は20代〜50代、女性は20代の感染者が多いと報告されています。
近年、梅毒感染者の急激な増加に伴い、赤ちゃんの先天梅毒への感染リスクが上昇しています。実際に、国立感染症研究所の調査によると、調査開始の1999年(平成11年)から2014年(平成26年)までは概ね10例以下で推移していました。しかし、2023年(令和5年)の報告数は37例と増加しています。

参考:国立感染症研究所-感染症発生動向調査事業年報

梅毒の症状

梅毒は、初期は症状がほとんどありません。症状がみられたら、病気が進行している可能性があります。

梅毒Ⅰ期:感染後数週間

感染がおきた場所にしこりやできものができたり、足の付け根が腫れたりすることがあります。痛みがない場合も多く、自然に症状がなくなることもあります。しかし、症状がなくなっても治療していない場合、病原体がいなくなったわけではありません。

梅毒Ⅱ期:感染後数ヶ月

感染して数ヶ月経過すると、梅毒の病原体が血液から全身へと運ばれます。そして、特徴的な赤い発疹が手の平や足の裏、胸やお腹などの体幹部に出ます。この発疹はバラの花のように見えることからバラ疹と呼ばれます。見た目の変化だけでなく、肝臓や腎臓など、さまざまな臓器に影響が出ることもあるでしょう。

発疹などの症状は、一度出ても数週間で自然に消失する場合があります。しかし、梅毒の病原体がなくなったわけではないため、一度症状がなくなっても、再度出現する可能性があります。発疹が梅毒によるものか、他の感染症やアレルギー症状によるものなのかは自己判断できません。そのため、発疹がみられたら医療機関へ相談し、早期の検査が必要です。

梅毒Ⅲ期:感染後数年

梅毒がさらに進行し、感染後数年経過すると、ゴム腫と呼ばれるゴムのようなできものができます。ゴム腫は皮膚や筋肉、骨にできるため、まわりの組織を破壊してしまうことがあります。
また、他にも歩行障害や精神症状、認知機能の低下などの神経症状が出ることもあります。現在は抗菌薬で治療が可能なため、Ⅲ期の症状は非常にまれです。

どの時期でも、脳や脊髄に感染し、さまざまな症状が出ることを神経梅毒といいます。
梅毒の症状がみられる、症状がない場合でも不安がある方や感染の心当たりがある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

梅毒の影響とリスク

妊娠中の女性が梅毒に感染すると、流産や死産のリスクが高くなります。また、お腹の中の赤ちゃんへ梅毒が感染すると、先天梅毒となります。

赤ちゃんへの影響

妊娠中の女性が梅毒に感染していると、流産や早産、死産の原因になります。妊娠中にお腹の中の赤ちゃんに感染すると、生まれてすぐは無症状でも、症状が徐々に出現するでしょう。体の発疹や骨への影響、目や耳などの神経症状が出る可能性があります。症状が出る時期には個人差があり、数年後の場合もあります。

妊娠中に梅毒感染がわかり、適切な治療をしたとしても、母子感染してしまう可能性は22%あるという報告もあります。治療をしても、赤ちゃんへの影響がゼロになるわけではありません。しかし、できるだけ早く治療することで、お腹の中の赤ちゃんへの影響を最小限にできるでしょう。

先天梅毒の症状

赤ちゃんの掌に赤い発疹がある
先天梅毒の多くは無症状で、生涯にわたって症状が出ないこともあります。
生まれたばかりでは症状がない場合もありますが、早期先天梅毒は生後3ヶ月以内に発症します。手のひらや足の裏に水ぶくれのある発疹や点状の発疹、鼻や口、おむつの中に盛り上がりのある皮膚の変化が特徴です。他にもリンパ節が腫れたり、肝脾腫などが見られることもあります。
晩期先天梅毒は生後2年以降に発症し、鼻や角膜実質炎、難聴、歯のエナメル質の形成不全(Hutchchison歯)、上顎の発育異常などを引き起こします。

梅毒の予防方法

梅毒の検査は母子保健法で義務付けられているため、妊婦検診では必ず行うことになっています。しかし、妊娠中に検査をして梅毒が発覚し治療をしても赤ちゃんに感染してしまう可能性はあります。そのため、妊娠前に検査をして治療をすることが大切です。
特に梅毒は潜伏期間が長く、感染していても初期は無症状の場合もあり、感染しても気づかない人もいます。そのため、今後妊娠を考えている場合はパートナーと一緒にブライダルチェックなどで事前に検査をしておくことが大切です。

2025年6月現在、梅毒予防のワクチンはありません。そのため、感染予防のための対策をとることが非常に大切です。

梅毒の治療方法

梅毒の治療はペニシリン系の抗菌薬が一般的です。病気の進行状況や程度により内服薬か点滴どちらかで治療が行われます。処方された薬は途中でやめずに必ず最後まで飲み切ることが大切です。
感染が判明した場合、適切な治療をすることで完治が可能です。早期発見・早期治療をするためにも、梅毒が疑われる場合はすぐに医療機関へ相談しましょう。

梅毒から赤ちゃんを守るためにできること

予防方法はありませんが、大事な赤ちゃんを守るために大切なことは検査を受けることです。

妊婦健診を受ける

妊婦健診では、妊娠初期に梅毒を含む感染症の検査をします。梅毒に感染しているかどうかは血液検査で調べられます。陽性と判断された場合は、すぐに治療を開始します。早期発見・早期治療ができた場合は、先天梅毒のリスクを下げることができます。そのため、妊娠したら定期的な妊婦健診と時期に合わせた検査を必ず受けましょう。
治療に使われるのはペニシリン系の抗菌薬で、妊娠中でも安全に使用できる薬です。妊娠中に治療すると、母体の治療ができるだけでなく、胎盤を通して赤ちゃんへも感染予防の効果が期待できると言われています。

当院の妊婦健診の詳細

妊婦健診以外に、梅毒の検査はどこでできる?

妊娠中であれば基本的には妊婦健診をしている医療機関で検査を受けることになりますが、その他にも近くの医療機関や保健所にて検査を行うことができます。梅毒に感染したかもしれないと思ったり、不安に思ったりした場合は検査を受けましょう。
検査できる場所とそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。

医療機関での検査

近くの病院やクリニックなどの医療機関で梅毒に感染しているかどうか検査ができます。検査は診察と血液検査で感染の有無を判断できます。
医療機関で検査した場合は、陽性の場合すぐに治療を開始できるメリットがあります。
受診する診療科は皮膚科や感染症科がいいでしょう。他にも男性であれば泌尿器科、女性であれば産婦人科でも診察を受けられます。
検査や治療ができる医療機関かどうかを事前に確認すると確実に検査・治療が受けられます。

保健所での検査

地域によっては、保健所で検査が受けられます。保健所での検査は無料・匿名で受けられるというメリットがあります。しかし、検査日時が限定されていたり、検査の結果陽性であれば医療機関の受診が必要になったりといったデメリットもあります。メリットデメリットを考え、どこで検査を受けるか検討するといいでしょう。
検査ができる保健所はWEBで検索できますので、気になる方は利用してください。
検査の結果を正しく判断し、治療を円滑に進めるためにも、最終的な性的接触のタイミングや感染の予防状況は医師に伝えられるようにしましょう。

自分と大切な人を守るためにできること

梅毒は腟分泌物や精液などの体液だけでなく、血液にも含まれています。粘膜や傷口に直接触れることで感染するため、予防のためには以下のことに注意しましょう。

性交渉時はコンドームを使う

性交渉のときはコンドームを使いましょう。日本ではコンドームは避妊目的で使われることが多いですが、コンドームは性感染症の予防にも効果的です。
ピルを服用している場合や妊娠中の場合、妊娠の可能性が無いからとコンドームを使用しない方がいます。しかし、そのような無防備な性行為に及ぶことで、性感染症の感染リスクが上がってしまいます。
コンドームを使用しても100%予防できるわけではありませんが、適切に使用すれば感染症予防には効果的です。

不特定多数との性的接触を避ける

多数の人と性的接触をすると感染のリスクが高まります。また、自分が感染するだけでなく相手を感染させるリスクも高まります。
性的接触の際には粘膜が直接触れないよう、コンドームを適切に使いましょう。

検査を受ける

妊娠前に梅毒を含む性感染症に感染していないか、確認しておくことが大切です。治療しないまま妊娠すると赤ちゃんへ感染する病気は他にもたくさんあります。
プレコンセプションケアとして、事前に検査を受けることもできます。

プレコンセプションケアとは

事前の検査をプレコンセプションケアといいます。事前の『プレ』、受胎の『コンセプション』を組み合わせた用語です。
近年注目されており、将来の妊娠を含めたライフプランを考え、若いうちから健康管理について考えるという取り組みです。
今は妊娠や出産を考えていなくても、性やからだの正しい知識を事前に知ることで、健康的な心と体を守ることに繋がると言われています。妊娠や出産に関する内容ですが、自分と大切な人を守るためにも女性だけでなく、男性にとっても必要です。

結婚前のブライダルチェックでも確認できるため、今後の妊娠や出産を考えている場合は検査を受けるといいでしょう。自分と相手の体を守り、赤ちゃんの大切な未来を守るためにも妊娠前からの確認が非常に大切です。
適切な治療を受け、完治したら赤ちゃんへ影響はしません。妊娠中の不安をなくすためにも妊娠前からの確認をしましょう。

当院のブライダルチェックの詳細

パートナーとともに検査を受けることが大切

梅毒に感染している場合、パートナーも感染している可能性が高いでしょう。そのため、一緒に検査を受けることをおすすめします。
もし、自分だけが検査後に治療し、完治しても、パートナーが治療していない場合、再度パートナーから感染してしまう可能性があります。梅毒は一度感染しても抗体ができる感染症ではありません。何度も感染するリスクのある病気です。治療は必ずパートナーと一緒に受けることが大切です。

まとめ

先天梅毒を予防するためには、予防と早期発見・早期治療が大切です。
妊娠中に梅毒に感染すると胎盤を介してお腹の中の赤ちゃんに感染してしまう可能性があります。早期に検査し治療が始められれば、お腹の中の赤ちゃんへの感染を防げる可能性が高まります。そのため、妊娠を希望している場合は妊娠前に検査を受け、治療を始めることが大切です。

また、治療はパートナーと一緒に行うことが大切です。性的接触をしている場合、無症状でも感染している可能性があります。
梅毒は一度治療し完治しても再度感染する可能性があります。そのため、治療をしていない場合、パートナーから再度感染してしまうこともあります。自分と大切な人を守るために適切な予防行動をとりましょう。
感染の有無はブライダルチェックなどで検査をすることもできます。妊娠を希望している場合は事前に検査をし、適切な治療を開始しましょう。

当院の産科について

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この記事の監修
エナみらいグループ理事長 石渡 瑞穂
石渡 瑞穂
エナみらいグループ理事長
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