子宮筋腫や子宮内膜症は、重い生理痛や過多月経(経血量が多い)の原因になり、ひどくなると日常生活にも差し障り、不妊や流産の原因になることもあります。また、悪性の病気ではありませんが、進行すると重症化する場合もあるため、少しでも違和感がある場合は早めに検診・治療を行いましょう。
子宮筋腫について
子宮筋腫は、子宮にできる良性の腫瘍で、悪性に変化することはほとんどないとされています。ただ、放置しておくと腫瘍の重さが1kgになることがあり、手術が必要になります。
子宮筋腫は腫瘍ができる場所に応じて名称が変わり、子宮の内側にできる粘膜下筋腫、子宮の筋肉のなかにできる筋層内筋腫、子宮の外側にできる漿膜下筋腫となっています。
症状
子宮筋腫ができると、月経に異常が起きます。次の2つが起きたら、子宮筋腫を疑われます。
- 月経時の出血量の増加
- 月経時の痛み
月経に関連しない症状もあり、それは次のとおりです。
- 月経でないのに膣から出血する
- 腰痛
- 頻尿
- 便秘
- 貧血
症状は、腫瘍ができる場所によって異なります。
粘膜下筋腫(子宮の内側に腫瘍ができる)では、月経時の出血量が多くなる傾向があり、漿膜下筋腫(子宮の外側に腫瘍ができる)では、症状が出にくいという特徴があります。
症状ではありませんが、若い人の場合、子宮筋腫ができると妊娠しにくくなったり、流産しやすくなったりすることがあります。
原因
子宮筋腫の発症率は25~30%ほどといわれています。
子宮筋腫は筋肉の異常増殖と考えられていますが、その原因は定かではありません。ただ、卵巣から分泌される女性ホルモンが影響していると考えられています。
そのため、子宮筋腫があっても、閉経後に小さくなることもあります。
治療法
子宮筋腫がみつかっても、腫瘍が小さく症状がなければ、治療はせず経過観察になるでしょう。症状があったり、腫瘍が大きくなったりすると、治療対象になります。
子宮筋腫の治療法には、薬物療法と手術があります。
薬物療法
子宮筋腫の薬物療法では、月経を止める薬を使い女性ホルモンの分泌を抑制します。投与方法は、点鼻薬を毎日使い、4週間に1回注射を打ちます。ただ、女性ホルモンの分泌量が減ると更年期のような症状が出たり、骨量が減ったりする副作用が出るので、薬物療法ができる期間は半年程度に限られます。
そして薬物療法によって子宮筋腫は小さくなりますが、薬物療法を中断するとまた大きくなってしまいます。そのため子宮筋腫では、薬物療法では根治できません。
薬物療法を受ける目的は、大きく2つあります。
1つ目は、閉経が近い人に使い、閉経を待つ目的です。先述のとおり、閉経すると子宮筋腫が小さくなる可能性があるので、閉経が近い人が薬物療法を受ければ、副作用が出る前に閉経し、腫瘍が小さくなり、手術を回避できるかもしれません。
2つ目の目的は、薬物療法で子宮筋腫を十分小さくすることです。腫瘍が小さくなると、手術しやすくなります。子宮筋腫が10センチ以上あると、お腹を大きく切り開く開腹手術が必要ですが、10センチ以下になるとお腹に小さな穴を開けるだけで済む、内視鏡下手術(腹腔鏡手術)を選択できるようになります。
手術
手術には、子宮ごと子宮筋腫を取り除く子宮全摘術と、子宮筋腫だけを取り除く筋腫核出術の2種類があります。
子宮全摘術は、子宮から子宮動脈や卵巣動脈や靭帯を切り離し、子宮だけを摘出します。子宮全摘術は、子宮筋腫の完治を期待できる治療法です。
また、子宮は取り除いても卵巣は残るので、ホルモンバランスが崩れることはないとされています。そして、日常生活や性生活への影響もほとんどありません。
ただ、子宮がなくなってしまうので、妊娠することはできません。そのため、子供をつくりたい方は、子宮を残す筋腫核出術を選択することになります。
筋腫核出術では子宮を切開して、腫瘍部分だけを取り除きます。
腫瘍の位置などによっては手術が困難になったり、腫瘍部分を取り除いても再発する恐れがあったりします。そのため、状態によっては、医師は患者さんに筋腫核出術をすすめないかもしれません。
そして筋腫核出後に妊娠した場合、出産は帝王切開をする確率が高くなります。
子宮全摘術でも筋腫核出術でも、開腹手術と腹腔鏡手術を選択することができます。
開腹手術はお腹を大きく切り、子宮を露出させて治療する方法です。確実な治療を行えるメリットはありますが、手術後の回復が遅れたり、大きな手術跡が残ったりするデメリットがあります。
開腹手術のデメリットを解消したのが、腹腔鏡手術になります。お腹に小さな穴を4つ開けて、そこに棒状の手術器具3本と棒状の腹腔鏡1本の計4本を挿入します。腹腔鏡はいわばカメラで、執刀医は腹腔鏡が映し出す映像を見ながら、手術器具を動かして切ったり縫ったりして手術を進めます。
腹腔鏡手術だと、お腹の手術跡が小さくて済むので、手術後の回復が早く、入院期間も短くなります。
子宮内膜症について
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が、子宮内膜以外の場所に発生する症状です。
子宮内膜とは、子宮内部の内側を覆っている粘膜で、妊娠すると胎児の「ベッド」の役割を果たします。月経は、子宮内膜が増殖、剥離を繰り返す現象で、子宮内膜が剥離したものが月経血です。
子宮内膜の組織は、本来は子宮内にしか存在しません。しかし子宮内膜症では、子宮内膜に似た組織が、子宮以外の場所にも点在してしまいます。子宮内膜症のほとんどは良性ですが、悪化することもあります。
症状
子宮内膜症では、子宮内膜に似た組織が子宮外で、子宮内膜のように増殖と剥離を繰り返します。子宮内膜に似た組織は、次の場所に発生します。
- 卵管
- 子宮筋層内
- 膀胱
- 膀胱子宮窩
- 尿道
- 膣
- 肛門
- 直腸
- 子宮頸管
- ダグラス窩
- 子宮漿膜
- 卵巣
正常な子宮内膜は、剥離すると月経血となって膣から排出されますが、子宮内膜症によってできた子宮内膜に似た組織は、剥離しても排出する「出口」がありません。そのため嚢胞(袋状)になり、そのなかに血が溜まることがあります。
子宮内膜症の症状は「Beecham」という分類法で次の4段階にわけられています。
ステージ1
子宮内膜に似た組織が、子宮外の場所に点在し、成長が始まった段階をステージ1と呼んでいます。
子宮内膜に似た組織は、子宮内膜と同じタイミングで剥離して、小さな血腫(血の塊)をつくります。この血の塊はまだ嚢胞ではありません。ステージ1では自覚症状はなく、この段階でみつけることは困難です。ただ、別の病気の検査や治療でみつかることがあります。
ステージ2
「点」だった病巣が大きく広がると、ステージ2と認定されます。月経血の量が増えたり、月経痛が発生したりします。
ステージ3
病巣が広がると、次第に固まってきます。また、卵巣や卵管など、子宮内膜に似た組織が発生した場所が癒着します。この状態がステージ3になります。
癒着とは、皮膚や粘膜などが、炎症をきっかけにしてくっついてしまう現象のことを指します。ステージ2までは小さな血の塊でしたが、ステージ3になると大きくなり嚢胞を形成するようになります。これをチョコレート嚢胞といいます。月経痛が悪化して起き上がれないこともあります。また、性交痛もステージ3の症状の特徴といえます。
ステージ4
癒着が、卵管、卵巣、子宮、膀胱、直腸、小腸などに広がった状態がステージ4です。骨盤のなかの臓器が固まってしまうことから、この状態のことを「凍結骨盤」と呼ぶこともあります。
肺まで癒着が広がることもあり、症状は激しさを増します。月経以外の時期にも強い腰痛や下腹部の痛みが現れ、日常生活が困難になります。
子宮内膜症が悪化すると、不妊症の原因になることもあります。子宮内膜症を発症した患者さんの2~7割が不妊症を併発するというデータもあります。
そのため、不妊治療を進めるなかで、子宮内膜症がみつかることもあります。
原因
子宮内膜症は、女性の5~10%が発症するとされています。
子宮内膜症も、子宮筋腫と同じように確実な原因はわかっていません。ただ、女性ホルモンが関わっていることは明らかなようです。
女性ホルモン説は、月経のたびに子宮内膜症が悪化することから有力視されています。また、最近は女性の未産化や晩産化が進み、生涯に経験する月経回数が増えています。
それに伴い、子宮内膜症の患者さん数も増えていることから、月経の回数の増加がこの病気のリスクを高めていると考えられています。
治療法
子宮内膜症の治療法には薬物療法と手術があります。
薬物療法
子宮内膜症が軽症の場合、鎮痛剤を使って対処療法で経過観察することもあります。進行すると、「Gn-RHアゴニスト」というホルモン剤を使って、月経を止めることがあります。月経を止めることによって症状の進行が止まることがあります。
さらに、ダナゾールという男性ホルモンに近いホルモン剤を投与して、病巣を小さくすることもあります。
ただ、いずれのホルモン療法も、副作用があるため長期間行うことはできません。そして薬物療法を止めると、子宮内膜症が再発する可能性が高くなります。
症状が悪化すると、手術を検討することになります。
手術
子宮内膜症の手術では、根治を目指す場合は子宮をすべて摘出します。症状が悪化していると子宮だけでなく、卵巣や卵管なども摘出することもあります。
ただ、子宮を摘出してしまうと妊娠できないので、子供を希望する方は保存手術を選択することになります。保存手術とは、チョコレート嚢胞だけを摘出する方法ですが、この手術を受けた患者さんの2、3割は再発してしまうというデータがあります。
子宮内膜症の手術には、開腹手術と腹腔鏡手術の2種類があります。
少しでも違和感を感じたら早めに受診しましょう
子宮筋腫も子宮内膜症も良性疾患であり、症状が軽ければ経過観察で済ますこともあります。
しかし、進行すると重症化するので、子宮筋腫や子宮内膜症が発症しているかどうかは知っておいたほうがよいでしょう。子宮がん検診をすることで、子宮筋腫や子宮内膜症の有無がわかることがあります。
子宮がん検診はほとんどの地方自治体が費用補助をしているので、1回2000円ほどで受けることができます。その機会を使って調べておけば安心できます。